ウェットラボは給排水・ドラフト・実験排気を備えた湿式実験室、ドライラボは解析・計測中心の乾式スペース。設備要件・賃料差・移行時の注意点・ハイブリッド型まで、ラボ選びの最初の分岐を実務目線で解説します。
最初の分岐:水と排気を使うか、使わないか
ラボ探しで最初に決めるべきは「ウェットかドライか」です。この区分で候補施設が半分以下に絞られ、賃料水準も大きく変わるからです。
ウェットラボ(wet lab)は、試薬・検体・培養物など液体や生体材料を扱う実験のための部屋です。実験用給排水、薬品蒸気を排出するドラフトチャンバー、室内の実験排気、薬品・危険物の保管設備、場合によっては実験排水の中和処理までが求められます。細胞培養、微生物実験、有機合成、分析化学——いわゆる「実験」の大半はウェットラボの領域です。
ドライラボ(dry lab)は水回りを必要としない研究開発のためのスペースで、実体は電源とネットワークを強化したオフィスに近いものです。バイオインフォマティクス、AI創薬、計算化学、電子回路・計測機器の開発、ロボティクスなどが主な用途です。CYBERDYNEのサイバニクス関連施設のように、装着型機器の開発拠点もこの系譜に含まれます。
設備要件の違いを具体的に見る
両者の違いは「シンクの有無」程度ではありません。建物側の投資規模が桁で違います。
| 項目 | ウェットラボ | ドライラボ |
|---|---|---|
| 給排水 | 実験用シンク・純水・実験排水処理 | 不要(給湯室程度) |
| 排気 | ドラフト・全体換気・屋外ダクト | 一般空調で足りる |
| 電気 | 三相・大容量。24時間稼働機器前提 | サーバー・計測機器分の増強程度 |
| 床 | 耐薬品性・防水・高床荷重 | OAフロアで可 |
| 安全区分 | BSL、危険物、毒劇物などの管理 | ほぼ不要 |
| 賃料水準 | 高い(建物投資が大きい) | ウェットの5〜7割程度の例が多い |
費用の考え方:ドライ+共用ウェットという構成
解析が主体で、実験は月に数回——そんなチームが専有ウェットラボを借りるのは過剰投資です。現実的なのは、ドライ区画(またはオフィス)を本拠にして、ウェット作業はシェアラボや共用実験室、受託(CRO)で賄う構成です。
たとえば東京なら、都心のドライ拠点+シェア型ウェットラボ(Beyond BioLAB TOKYOなど)の組み合わせで、専有ウェットの半分以下の固定費で回せます。逆に、毎日ベンチワークが発生するチームが共用で回そうとすると、予約の取り合いと移動時間で開発速度が落ちます。「週に何時間ベンチに立つか」を数えてみるのが、構成を決める一番確実な方法です。
ウェットへの拡張性を最初に確認する
見落としがちなのが移行の問題です。創業時はドライで十分でも、事業が進むとウェット実験を内製したくなるケースは非常に多い。そのときに建物がウェット対応していなければ、移転一択になります。
同じ施設内にウェット区画とドライ区画が併存する施設(三井リンクラボ各棟、川崎キングスカイフロントのライフイノベーションセンターなど)なら、館内での住み替えで済みます。ドライで入居する場合も、「将来ウェット区画への変更・増床は可能か」「排気・給排水のシャフトは近くまで来ているか」を最初の見学で確認しておくと、1〜2年後の自分を助けます。
ハイブリッド型:ラボ+オフィスの一体区画
実際の研究開発では、ベンチワークとデスクワークが半々というチームがほとんどです。そのため最近の施設は「ラボ+オフィス一体型」の区画設計が主流になっています。実験室の隣にガラス越しのオフィスゾーンを設け、白衣を脱がずに行き来できるレイアウトです。
区画を選ぶときは、実験面積とデスク面積の比率が自社の働き方に合っているかを見てください。実験7:デスク3の区画に解析中心のチームが入ると、デスクが足りず結局近くにオフィスをもう1つ借りる羽目になります。当サイトでは用途区分に「オフィス」を独立させているので、ラボ併設オフィスの有無も検索条件にできます。
自分の研究はどちらに該当するか:判定チェック
- 試薬・溶媒・生体材料を自分たちの手で扱う → ウェット
- 細胞・微生物の培養、遺伝子操作をする → ウェット(多くはBSL-2も必要)
- 解析・シミュレーション・設計が主業務で、実験は外注 → ドライ
- ハードウェア試作・計測が中心で、化学薬品はほぼ使わない → ドライ(電源・床荷重は要確認)
- 現在は解析中心だが、1年以内に実験内製化の計画がある → ウェット対応施設のドライ区画が安全
よくある質問
ドライラボにも安全上の規制はありますか?
化学薬品を使わなければ大半の規制は関係しませんが、レーザー機器・高圧ガス・大型電源設備を使う場合はそれぞれの安全基準が関わります。施設側への申告は正確に行ってください。
ウェットラボの区画にオフィス機能だけで入居できますか?
可能な施設が多いものの、ウェット仕様の賃料を払ってオフィス利用するのは割高です。オフィス区画が別にある施設か、オフィスビルを検討する方が合理的です。